みなさんこんにちは、LSのShioriです。
暑いですね!日本は今年の梅雨明けが史上最速、さらに連日うだるような暑さや豪雨に見舞われているとのことですが、体調を崩されたりしていないでしょうか。ここヨーロッパも熱波に襲われています。ドイツではエアコンが必要なほど暑くなる日は年に数日、したがって家庭用エアコンも普及していません。当然我が家にもありませんので扇風機をフル稼働させていますが、さすがに38度にもなると仕事も家事も手につきませんね。冷蔵庫でキンキンに冷やしたスイカを食べながら、日が沈むまでじっとしています。
さて、毎月恒例のエラーに関する投稿です。今回は6月のGoCheckレビューで頻出のエラーを取り上げます。先月の投稿はこちらからどうぞ。6月は、5月に続き脱落が多く、直訳も多かったという印象です。GoCheckレビューではそれぞれのエラーの種類と深刻度を判断していますが、スコアに影響するのは「深刻度(Severity)」のみです。エラーの判断基準はこちらの投稿で確認できますので、目を通してみてください。
それでは直訳の例から見ていきましょう。
原文:She sat in a car on a small road in the suburb of London and took her hands off the wheel.
訳文:ロンドン郊外にある小さな道路で、運転していた彼女はハンドルから手を離した。
訳例:ロンドン郊外にある細い道路で、運転していた彼女はハンドルから手を離した。
解説:smallは小さいという意味の英単語ですが、道路の形容詞として「小さい」は一般的ではないですね。「細い道路」、「小さな通り」などと訳すことができると思います。
原文:I am sure we can find a way to reach something on the political horizon for our countries.
訳文:私は両国のために、政治的地平線の先でどこかに到達する方法を見つけることができると確信している。
訳例:私は両国のために、政治的展望の中で何らかの解決策を見出すことができると確信している。
解説:「政治的地平線」という言葉は一般的に使われていませんので、訳を工夫する必要があります。Horizonには「展望」という意味もありますので、「政治的展望」などと訳すことができますね。
次に脱落の例です。
原文:Medical equipment manufacture ABC has entered into a strategic partnership with the cancer treatment pioneer XYZ.
訳文:医療機器メーカーのABC社はがん治療のパイオニアXYZ社と提携関係を結んだ。
訳例:医療機器メーカーのABC社はがん治療のパイオニアXYZ社と戦略的提携関係を結んだ。
解説:どのような提携関係を結んだのか原文にはしっかりと書かれていますので、漏れなく訳さなければいけません。なお、この脱落が翻訳全体に及ぼす影響はわずかであり、翻訳は利用可能ですのでエラーの深刻度は「軽度」となります。
原文:Adjusted EBITDA came to a loss of $45.6 million.
訳例:修正EBITDAは4,560万ドルとなった。
訳例:修正EBITDAは4,560万ドルの損失となった。
解説:脱落は些細なミスになることもありますが、こちらは大きなミスになってしまった例です。a loss ofが抜けたため、訳文が原文と逆の意味になってしまいました。この翻訳は利用できませんので、「重度」のエラーに分類されます。
原文:Jane Smiths, who often underplays Emily’s contribution to her own business success, jokingly offered £1.
訳文:エミリーの事業の成功への貢献をしばしば軽んじているジェーン・スミスは、冗談交じりに1ポンドを提案した。
訳例:自らの事業の成功にエミリーがどれだけ貢献してくれたか、常々過小評価しているジェーン・スミスは、冗談混じりに1ポンドを提案した。
解説:ひとつの文に複数の登場人物がいる場合、因果関係がはっきりわかるように訳出する必要があります。この訳文では、エミリーが「誰の」事業の成功に貢献したのかわかりません。日本語では人称代名詞を省略することが多いですし、登場人物が2名とも女性ですので、her ownを「彼女自身」と訳すのは避けた方がいいでしょう。したがって、「自らの」、「自身の」などと訳して、語順などを微調整すると、伝わりやすい訳文になるのではないでしょうか。
最後に、頻出するエラーではありませんが、地名の日本語表記について取り上げたいと思います。ここ数ヶ月ウクライナの地名を目にする機会が非常に多く、みなさんすでにお気づきかとは思いますが、ある日を境に「キエフ」「ハリコフ」が「キーウ」「ハルキウ」に変わりましたね。日本政府が表記の変更を発表したのが最近(2022年3月31日)で、まだ旧表記も広く認識されていることもあり、旧表記の使用がエラーになるのかは判断が難しいというのが正直なところです。ですが、常に正式な表記を確認して使用することをお願いしたいと思い、今回取り上げました。
今月は以上です。投稿への感想や、エアコンなしで夏を乗り切るためのヒントなど、ぜひコメント欄でお聞かせください。暑い夏がこの先しばらく続きますが、水分をしっかり摂って楽しみましょう!
7 comments
とても有用なアドバイスや貴重な情報を誠にありがとうございます!
こちらの原文の訳例についての質問ですが
”offered £1”が、「提案する」いうよりは、「提供する」という意味で捉えたほうが自然な感じがするのですが。。(前後で語られている内容がわからないので、この部分で判断すると「提案する」とすると不自然な感じがしました。)
>原文:Jane Smiths, who often underplays Emily’s contribution to her own business success, jokingly offered £1.
訳例:〜冗談混じりに1ポンドを提案した。→冗談混じりに1ポンドを差し出した。
fudesakiさん、コメントありがとうございます。今後も少しでもお役に立てるような投稿ができるように精進します!
Maikoさん、貴重なご意見ありがとうございます。たしかにこの文だけ見ると、「offer」の訳語は「提供する」のほうがしっくりくるかもしれないですね。
実は「エミリーがビジネスを売却する」という話が先に出てきており、それを受けて、(ジェーンがエミリーの事業の買収額として)冗談混じりに1ポンドを提案した、という訳につながっています。文字制限の関係もあり全文を載せることはできないのですが、エミリーとジェーンはこのとき同じ場所にいたわけではなく、そのためジェーンが1ポンドを実際に差し出したというよりも、話の流れで「1ポンド」という発言に至った、ということになります。
今後はもう少し文脈についても触れるようにしますね!
yt5858さん
コメントありがとうございます。
「小さい」の意味は、体積や面積がわずかな量を占める、ですので、「道路」を修飾する言葉としてはふさわしくないと判断しています。
道路は道路構造令や建築基準法などで幅員が定義されています。道路構造令では最も低い区分(最も幅の狭い道路)の1車線の幅員を2.75メートル、建築基準法では幅員が4メートル以上のものを「道路」と定義しています。2.75メートル以上の幅があるものを「小さい」とは形容しがたいのではないでしょうか。
また、「小さな通り」が許容される理由としては、「道路」は人や車が通る「道」という認識が強いのに対し、「通り」は人や車が通る道とその道沿いの建造物などを含めた空間を意味することが多いからです。
横から失礼します。
これって、「小さい」と「小さな」の違いが関係しているのではないでしょうか?
大まかに言って、「小さい」は客観的基準に基づいて使用することが多く、「小さな」は主観が入ると思います。その違いによって、「小さな道路」は表現としてアリだけど、「小さい道路」は違和感が出るのでは?
Shioriさんは「小さい道路」はおかしいという意見、yt5858さんは「小さな道路」は問題ないという意見で、ちょっと議論がかみ合ってないように見受けられます。元々の翻訳は「小さな道路」で、小説っぽい主観が入ってそうな文章なので、それはそれで問題なかったような気がします。
>実は「エミリーがビジネスを売却する」という話が先に出てきており、
訳例ではジェーン・スミスのビジネスになっていると思います。
>訳例:自らの事業の成功にエミリーがどれだけ貢献してくれたか、常々過小評価しているジェーン・スミスは、
回答が遅くなり申し訳ありません。こちらの回答がGengoのQualityとCommunity Managementチームから承認された、最終の回答です。
yt5858さんのおっしゃるとおり、「小さな道路」は自然に使われる言葉ですね。lalalaさんのご指摘で「小さい」と「小さな」という別の単語について議論していることに気がつきました。ご指摘ありがとうございました。
her own の訳し方についてですが、確かに訳語をどうするかよりも、語順の工夫が必要な場面でしたね。こちらの意図としては、複数の登場人物がいる場合に、対応関係が読み手に明確に伝わるような訳し方が重要であるということを言いたかったのですが、紛らわしい書き方になってしまいました。訳例の often の訳し方の間違いや対応関係を因果関係と書いてしまったことをご指摘いただきいありがとうございました。
「政治的地平線」についてですが、「このような言葉はない」ではなく「一般的に使われることはほぼない」と表現するべきでしたね。
「政治的地平線」という言葉が一般的に使われることはほぼなく、読み手にも意味が伝わらないため、エラーという判断は変わりません。例としてあげてくださった単語は「政治的地平」で、別の言葉ですね。
ご指摘を受け、投稿内容の一部を修正しています。
いつもお時間をかけて投稿を読んでくださり、詳細なコメントをお寄せくださりありがとうございます。今回の議論はこれをもって終了とさせていただきます。