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みなさんこんにちは。LSのShioriです。秋がきましたね。毎年「今年こそは読書の秋にしよう」と思うのですが、結局は食欲の秋になってしまいます。この秋に読むべきお勧めの小説や翻訳関連の書籍があれば、ぜひコメント欄で教えてください。この機会に、買ったままでなかなか手をつけられていない本や、日本語版を読んだことのある本の原書を読んでみるのもいいかもしれないですね!それでは、今月も頻出のエラーを見ていきましょう。先月の投稿を見逃した方は、こちらからどうぞ。

 

8月のエラーは誤訳(46.2%)が最も多く、脱落・付加(17.2%)、コンプライアンスエラー(13.1%)、構文エラー(10.3%)、スペルミス(7.6%)と続き、最も少なかったのが語句の構造と句読点エラー(それぞれ2.8%)でした。なお、下記で使用している例は実際にGoCheckレビューでエラーと判定されたものですが、原文と訳文を一部変更しています。

 

 

誤訳

原文:John Doe, an assistant professor of economics at ABC University

訳文:ABC大学で経済学の助教授を務めるジョン・ドウ

訳例:ABC大学で経済学の助教を務めるジョン・ドウ

解説:アメリカの大学では、professor、associate professor、そしてassistant professorと職階が定められており、assistant professorは「助教」と訳します。associate professorは「准教授」と訳し、助教の上、教授(professor)の下の職位にあたります。イギリスなどではアメリカと異なる呼称を使用している場合がありますので、文脈に合った訳語を選択できるようにリサーチしましょう。なお、日本では学校教育法改正に伴い、「助教授」が廃止されました。

 

 

原文:When I was shopping, I got mean mugged.

訳文:私が買い物していると、意地悪をされました

訳例:私が買い物していると、嫌な顔でじろじろと見られました

解説:mean mugはアメリカで使われるスラングで、”to shoot a dirty look at (someone); to express hostility or menace towards (someone) through a dirty look”(Wiktionaryより)という意味です。アメリカのスラングになじみがないと、訳出が難しい言葉かもしれないですね。訳文では「意地悪された」と訳されていますが、mean mugが持つ”to shoot a dirty look”や”through a dirty look”という意味が訳に反映されていないためエラーになりました。アルクのオンライン辞書「英辞郎」ではmean mugを「嫌な顔で〜をじろじろ見る」としています。

 

 

構文エラー

原文:But the National Newspaper Club, a group that most major newspapers belong to in Tokyo, argues that the industry is currently facing a serious crisis.

訳文:しかし、東京に拠点を置く主要新聞社のほとんどが所属する全国新聞クラブは、業界が現在重大な危機に直面していると主張する。

訳例:しかし、東京に拠点を置き、主要新聞社のほとんどが所属する全国新聞クラブは、業界が現在重大な危機に直面していると主張する。

解説:この訳文の問題点は、2通りの解釈ができてしまうという点です。

1)全国新聞クラブに所属するのは東京に拠点を置くほとんどの主要新聞社

2)全国新聞クラブの拠点は東京で、所属するのはほとんどの主要新聞社

この例のように原文からどちらの解釈が正しいか判断できない場合には、リサーチを行なって事実関係を確認してから訳出します。ウェブサイトでは、「全国新聞クラブ」の拠点は東京にあり、東京以外に拠点を置く地方紙も多く所属していることが確認できるとします。その場合、2つめの解釈をもとに訳出するべきだということがわかります。訳出後は訳文だけを読み直して、読み手に誤解を与える表現が含まれていないことを確認してください。

なお、リサーチをしても事実関係がわからない場合や判断に自信が持てない場合には、コメント欄で依頼者に質問することをお勧めします。

※実際のGoCheckレビューでは原文と訳文に実在の団体名が使われていましたが、この記事では架空の団体名を使用しています。

 

 

みなさんは案件のコメント欄で依頼者とコミュニケーションを取ったことはありますか。もちろんコミュニケーションが必要ない案件もたくさんありますが、訳語の選択に迷ったり、原文の解釈に自信がなかったりするときには、ぜひコメント欄で依頼者に質問してみてください。回答によって原文の理解が深まり、より良い訳を思いつく可能性がありますし、回答がなかったとしても、翻訳者としてできる限りの努力をしたことを依頼者やレビュアーに示すことができます。また、上記のように判断に迷った場合、採用しなかったほうの訳を代替案としてコメント欄に残しておけば、依頼者が適切な訳を選択するのに役立つ可能性もあります。せっかくのコメント欄です、ぜひ活用してより良い翻訳を目指しましょう。

 

 

さて、今月は誤訳2例と構文エラー1例を取り上げました。「言葉は生き物」というように、言葉は時代に合わせて変化し続けていますね。今まで使われてきたから、多くの人が理解するからといって、その言葉遣いが正しいとは限らないということを日々実感しています。また、英語と言っても国やコミュニティによって言葉遣いが大きく異なるというのは非常に興味深いですよね。スラングや新語などの知識のアップデートは、個人的に意識して取り組んでいきたい課題のひとつです。みなさんは翻訳者として今後どのような面を強化していきたいですか。よかったらコメント欄で教えてください。今月は以上です。これからどんどん気温が下がっていきますが、風邪など引かないようにお気をつけくださいね。また来月!

2 comments

  • 1
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    lalala

    全国新聞クラブの訳文は、2通りの解釈ができることが問題というより、筆者の意図が正しく伝わらない点が問題なのだと思います。「全国新聞クラブは東京にあり、(全国の)主要新聞社のほとんどが所属している」という情報を筆者が伝えたいのであれば(Shioriさんはそういう前提で説明されています)、訳文にはやはり問題があります。訳文だけ読めば、「東京に拠点を置く」は「主要新聞社」にかかると解釈するのが自然だと感じます。2通りの解釈ができると言っているのは、我々が原文と筆者の意図を知ったうえで、無理やり読めば「東京に拠点を置く」が「全国新聞クラブ」にかかっているとも解釈できるよねという話であり、本来はそのような解釈を読者に期待することはできないと思います。

    もちろん、yt5858さんがおっしゃるように、「東京に拠点を置く」が「主要新聞社」にかかっていても事実には反しませんが、今回はそれは筆者の意図するところではないという前提です。ちなみに、純粋に原文だけを読んだ場合に、筆者の意図をどう解釈するのが正しいのかは気になります。もし筆者が、全国新聞クラブの特徴として「東京に拠点を置く主要新聞社のほとんどが所属している」という情報を伝えたいのであれば、「most major newspapers in Tokyo belong to」とか「most Tokyo-based major newspapers belong to」と表現するはずで、「belong to」の後に「in Tokyo」を持ってくるのは不自然に思うのですが、いかがでしょうか?

  • 1
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    lalala

    >解説:この訳文の問題点は、2通りの解釈ができてしまうという点です。
    1)全国新聞クラブに所属するのは東京に拠点を置くほとんどの主要新聞社
    2)全国新聞クラブの拠点は東京で、所属するのはほとんどの主要新聞社
    >ウェブサイトでは、「全国新聞クラブ」の拠点は東京にあり、東京以外に拠点を置く地方紙も多く所属していることが確認できるとします。その場合、2つめの解釈をもとに訳出するべきだということがわかります。
    クラブの拠点が東京にあり、東京以外に拠点を置く地方紙も多く所属しているから、2つめの解釈を選ぶとおっしゃっているのです。それは1つめの解釈を排除する理由にはならないと思うのです。

    厳密に言えば、ご指摘のとおりだと思います。訳文を決定する上で重要なのは筆者の意図がどこにあるかなので、事実関係からだけでは必ずしも判断できません。事実関係を調べた上で、筆者が全国新聞クラブの主張を紹介するに当たり「東京に拠点を置く主要新聞社のほとんどが所属している」という点を強調したかったのかどうかを、文脈や原文の構造自体から判断する必要があります。

    今回、Shioriさんは事実関係の説明のみで、判断基準となる文脈を必ずしも明確にされていないので、全員が納得する説明にはならなかったのだと思います。正直、私は当初違和感を覚えることなく、こういう2通りに解釈できてしまう翻訳よく見るよなあと納得していました。しかし、yt5858の「2通りの解釈ができるからエラー認定されるなど、聞いたことがありません」というご指摘を読んで、(1) そもそも2通りの解釈ができるのが問題ではなく、筆者の意図が正しく伝わる訳文かどうかが問題であること、また、(2) 訳文だけ読めば、「東京に拠点を置く」が「主要新聞社」にかかっていると解釈するのが自然であり、2通りの解釈ができると考えるのは翻訳者の一種の甘えである、ということに気付きました。その意味でも、yt5858さんのご指摘は鋭いなと思いました。文字数の制約がある中で記事を書いているShioriさんにとっては、yt5858さんはなかなか怖い存在だとは思いますが(笑)

     

    この秋に読むべきお勧めの小説や翻訳関連の書籍があれば、ぜひコメント欄で教えてください。

    最後に、今回の議論とも関連しますが、越前敏弥さんの『「英語が読める」の9割は誤読』等の著作はおすすめです。時に勝手な解釈をしがちな自分にとっては、非常に参考になりました。

    Edited by lalala
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