みなさんこんにちは。LSのShioriです。現在ユーラシア大陸の(ほぼ)西の果てにいます。天気がいい日は部屋から大西洋が見えるのですが、この先にアメリカがあるのかと思うと不思議な興奮を覚えます。この投稿を読んでくださっている方の中には、アメリカ在住の方もいるのでしょうか。みなさんがどこから読んでくださっているのかとても気になります。それはさておき、毎月恒例となりましたエラーについての投稿です(前回の投稿はこちら)。今回は4月のGoCheckレビューから、気になったエラーを取り上げます。
4月も引き続きWrong Term(間違った語句)のエラーが最も多く、構文エラーや脱落も比較的多く見られました。また、数は多くありませんが、コンプライアンスエラーと句読点のエラーも引き続き発生しています。今までの投稿で何度もお伝えしていますが、コンプライアンスエラーと句読点のエラーは、しっかり確認することで防げるものです。Gengoスタイルガイドと依頼者の指示・グロッサリーに必ず目を通してください。しつこいと思われていることは重々承知ですが、これはコンプライアンスエラーが減るまで繰り返しお伝えしていくつもりです。この投稿では、Wrong Term(間違った語句)のエラーをいくつか紹介します。
原文:He came up with the idea of implementing the bible in Braille to help the blind.
訳文:彼は、目の不自由な人を支援するために聖書を点字で構築するというアイディアを思いついた。
訳例:彼は、目の不自由な人を支援するために聖書を点字化するというアイディアを思いついた。
解説:実は implementがこのように使われているのは初めて見ましたが、たとえ使われている英語表現になじみがなくても、日本語として自然に訳す必要がありますね。聖書は書物です。日本語では書物を「構築する」とは言いません。ここで原文の筆者が言いたいのは「聖書を点字にする」ということですので、「点字化する」または「点訳する」などと訳せるかと思います。
余談ですが、私たちが普段使っている文字を点字にすることを「点訳(点字訳)する」といい、点訳する人を「点訳者」と呼ぶそうです。
原文:I tend to get nervous when I am alone with just one person.
訳文:他人と1人きりのときは緊張しがちだ。
訳例:他人と二人きりのときは緊張しがちだ。
解説:自分以外の誰かと一緒にいるとき、日本語では「他人と一人きり」とは言いません。Aloneという単語を見ると反射的に「一人きり」と訳したくなってしまう気持ちはわかりますが、そこに誰が・何人いるのか理解した上で、正しい表現を使いましょう。
原文:Should you have any doubts, click here for online form or here to chat online.
訳文:ご不明な点がありましたら、こちらをクリックしてオンラインフォームを参照するか、こちらからオンラインチャットを開始してください。
訳例:ご不明な点がありましたら、こちらをクリックしてオンラインフォームを送信するか、こちらからオンラインチャットを開始してください。
解説:原文には「こちら」をクリックしたら何が起こるのか具体的に書かれていませんので、訳出するときに動詞を補うと伝わりやすくなります。この訳文でも動詞が補われているのですが、残念ながらその補われた動詞が不適切でした。フォームは「形、書式」などの意味を持ちますので、この文脈でそれに続く動詞として適切なのは「送信する」「記入する」などです。
原文:Nurses tend to babies in this room and patients getting chemotherapy sit in the other room.
訳文:看護師たちはこの部屋で赤ちゃんの世話をして、患者たちは別の部屋で座って化学療法を受ける。
訳例:看護師たちはこの部屋で乳児の世話をして、患者たちは別の部屋で座って化学療法を受ける。
解説:この実例はニュース記事の翻訳の案件から抜粋しました。Babiesはもちろん「赤ちゃん」のことですが、ニュース記事、特に世界情勢や政治を扱ったもの、では稚拙な印象を与える可能性があります。訳語は、文書の使用目的や読みやすさ、伝わりやすさを考慮して選択する必要があります。使用目的によりふさわしい別の言い方ができないか、自問自答しながら訳出してみてください。
これらのエラーは、英語の理解力ではなく日本語の文章力が問題で起きています。4月のGoCheckレビューでは、このような日本語が原因のエラーがかなり多い印象を受けました。以前「〜したり」について書かれた『毎日ことば』のブログの投稿を紹介したことがありますが、毎日新聞の校閲センターが正しく伝わりやすい日本語に関するさまざまなコンテンツを公開しています。クイズなどもあり、普段から気になっていた言葉遣いについて楽しみながら知ることができます。校閲者の視点を意識しながら訳文を見直すと、見落としがちなポイントに気がつくかもしれません。参考にしてみてください。
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