こんにちは、LSのShioriです。久しぶりの投稿となりました。今回は専門外や経験の少ない分野の翻訳を担当する時のヒントについてお話したいと思います。
Gengoで活躍されているみなさんは、少なくとも1度や2度は専門外や不慣れな分野の案件を担当したことがあると思います。そのような案件に出会った際には、多少なりとも不安が頭をよぎりますよね。そんな時にぜひ気をつけてほしいことがあります。それは、原文をしっかり読んで対応可能な内容かを冷静に判断することです。Gengoの案件は基本的に一般的な知識があれば対応できるもののはずですが、中には高度な専門性を要するものが紛れ込んでいる可能性もあります。与えられた時間内にリサーチ、訳出、見直しができるか検討して、対応の可否を判断してください。
与えられた時間内に対応ができると判断した場合には、次の点に注意しながら訳出を進めましょう。
・不慣れな単語には印をつけ、リサーチと確認を行う
辞書やインターネットで簡単に調べただけではわからない単語や表現がある場合には、類似した製品やサービス、技術などについて調べてみましょう。似た製品やサービス、技術について説明する文書やウェブサイトには役立つ単語や表現が含まれている可能性がありますので、すぐに適切な訳語が見つからない場合にはこの方法を試してみてください。
そして、リサーチを行い、適訳が見つかったら、忘れずに確認をします。例えば、“flying qubit”という単語についてリサーチを行い、適訳が「飛行量子キュービット」だと判断したとします。そこで終わらせるのではなく、原文のトピック(ここでは「コンピューティング」)と「飛行量子キュービット」を一緒にインターネット検索し、実際にその文脈で「飛行量子キュービット」という言葉が使われているかを確認します。
・関連するニュースを読む
単語や表現というよりも、書かれているトピック自体があまりなじみのないものという場合には、関連するニュースを読むのがおすすめです。これは特に政治、経済、テクノロジーの分野で役立つと思います。国同士の関係性や時事問題、経済の仕組みなどは、関連ニュースを読むことで理解が深まり原文の理解が容易になるはずです。日本に進出している英語メディアであれば、同じニュースを日英両言語で配信している可能性が非常に高く、単語や表現を比べながら読むこともできるので便利です。個人的にはBBCやCNNを使うことが多いです。
また、専門的で難しい単語があり、自分で意味がはっきり理解できていない場合には、それをそのまま使うのではなく平易で伝わりやすい一般的な単語に置き換えられないか検討することをおすすめします。
次に、訳出後や普段の生活でやってみてほしいことをいくつか紹介します。
・用語集を作っている場合は新しい単語、表現を追加
英単語と日本語訳だけでなく例文も合わせて記載すると、どのような文脈で使われていたか後から確認できて便利です。
・訳出に苦労した部分があればメモを取るなどして、後日別の訳し方がないか考えてみる
メモを取る、頭の片隅に置いておくなどして、日常のふとした瞬間に思い出すと案外いい訳が思いついたりします。繰り返し触れることで定着度も上がります。
・日頃から幅広い分野のニュースや最新情報に触れる
興味のない分野の情報を自ら取り入れるにはなかなかの努力が必要ですが、これができると対応できる分野が少しずつ増えて仕事が楽になっていきます。読んでいて楽しいと思えるウェブサイトやブログなどを見つけて、少しでも楽しみながら情報を得られるといいですね。
以下に、未知の単語の誤訳の例と参考にしたウェブサイトをいくつか紹介します。
原文:AI’s issues, including doomerism, should be discussed by researchers, regulators, as well as public.
訳文:地球規模の問題を含むAIの問題は、研究者、規制当局、ならびに一般大衆が議論すべきである。
訳例:ドゥーメリズム(ドゥーマリズム)を含むAIの問題は、研究者、規制当局、ならびに一般大衆が議論すべきである。
https://www.forbes.com/sites/digital-assets/2023/03/30/we-should-welcome-the-new-ai-doomerism/
原文:She came to realize that finding carbon-capture solutions required not only applying machine learning but also experimenting in a lab.
訳文:炭素捕捉ソリューションを見つけるには、機械学習を応用するだけでなく、ラボで実験することも必要だと彼女は気づいた。
訳例:炭素回収ソリューションを見つけるには、機械学習を応用するだけでなく、ラボで実験することも必要だと彼女は気づいた。
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/ccus.html
最後に、不慣れな分野の翻訳を担当する際に最も重要だと思うのは、好奇心です。難しい内容の翻訳に取り組む中で、新しいことを知る喜びが不安を上回れば、心穏やかな状態のまま翻訳を終えることができると思います。みんな最初は初心者です。未知の分野に不安を感じるのではなく、新しい知識を得るいい機会だと捉え、不慣れな分野の案件にも果敢に挑戦していきましょう!
今月は以上です。久しぶりの投稿、いかがでしたでしょうか。私はテクノロジー分野に関して苦手意識があるので、日々少しずつですがMIT Technology Reviewなどのウェブサイトを覗くようにしています。みなさんはどのような分野に苦手意識を持っていますか?対処法も合わせて、ぜひコメントで教えてください。
3 comments
見慣れない単語でしたので、「"ドゥーメリズム"」と「"ドゥーマリズム"」でグーグル検索をしてみたのですが、前者が72件、後者が7件しかヒットしませんでした。
あまり一般的な単語ではないようなので、翻字しただけでは意味が伝わらない可能性が高いと思うのですがいかがでしょうか。
yt5858さん
コメントありがとうございます。比較的新しい言葉だとは思いますが、英辞郎のオンライン辞書にも登録されている単語ですので、このように訳して問題ないと思います。
ご返信ありがとうございます。
>英辞郎のオンライン辞書にも登録されている単語ですので、このように訳して問題ないと思います。
このような一般的ではない単語の訳には困ることが多いので、こういった訳語の採用の基準を教えて頂けるのは非常に助かります。
もうひとつ気になったのですが、"飛行量子キュービット" で検索してみると本記事(「ロスト・イン・トランスレーション−未知の単語と遭遇した時のマインドフルネス」)しかヒットしません。
>“flying qubit”という単語についてリサーチを行い、適訳が「飛行量子キュービット」だと判断したとします。そこで終わらせるのではなく、原文のトピック(ここでは「コンピューティング」)と「飛行量子キュービット」を一緒にインターネット検索し、実際にその文脈で「飛行量子キュービット」という言葉が使われているかを確認します。
こちらについてご確認いただけないでしょうか。