みなさんこんにちは。LSのShioriです。お盆は終わりましたが、暑い日々が続いているようですね。夏バテなどせず元気に過ごされていますか。私は現在1週間ほどドイツのバイエルン州に滞在しています。すでに朝晩は地元の北海道のように涼しく、秋の匂いもし始めていますので、このまま秋に向けて順調に涼しくなることを願うばかりです。
さて、前回の投稿では、直訳と脱落の例を取り上げました。7月は誤訳が最も多く、脱落や構文エラーも比較的目立っていた印象です。主語と述語の不一致(語句の構造)のエラーも毎月目にするエラーのひとつです。そして、Compliance Errorも引き続き発生しています。依頼者がグロッサリーを提供している場合、自分で訳語を調べる手間が省けるのでラッキーですよね?このグロッサリーを活用しない手はありません!案件を引き受けたら最初に依頼者からの指示に目を通して、グロッサリーやスタイルガイドの有無を確認しましょう。みなさん、Gengoスタイルガイドの存在はもちろんご存知ですよね。こちらも定期的に確認しましょう。Compliance Errorほど惜しいエラーはありませんので、ゼロを目指してこれからも呼びかけていきたいと思います。
それでは7月のエラーの実例を見ていきましょう。
原文:The expert has denied the rumor that this kind of crises only affect the global north.
訳文:その専門家は、そのような危機は北の国々にしか影響を与えないという噂を否定した。
訳例:その専門家は、そのような危機はグローバルノースにしか影響を与えないという噂を否定した。
解説:こちらは誤訳の例です。「先進国」と呼ばれる国々が主に北半球に集中していることから、「グローバルノース」という呼び方をするようになりました。それに対して、「開発/発展途上国」は「グローバルサウス」と呼ばれています。なおオーストラリアやニュージーランドは南半球に位置していますが、「グローバルノース」に含まれます。「南北問題」で検索すると、詳しい情報が得られます。
原文:A new generation chip will be released during Q2/2023.
訳文:新世代のチップは、2023年2月期の間に発売予定です。
訳例:新世代のチップは、2023年第2四半期に発売予定です。
解説:こちらも誤訳の例です。ビジネス文書でQ2が出てきたら、通常第2四半期と訳します。7〜9月という訳し方もできます。2月と7〜9月では意味が大きく異なり、文書の使用目的によっては訳文が使用不可になる可能性もありますので、この誤訳は中程度あるいは重度の誤訳と判定されます。
原文:Pro devices for the everyday photographers
訳文:写真を毎日撮影するフォトグラファー向けプロレベルデバイス
訳例:アマチュアフォトグラファー向けプロレベルデバイス
解説:「everyday」には「毎日」という意味のほかに「平凡な・ありふれた」という意味もあります。この文脈では「平凡な・ありふれた」という意味で使われていますが、「平凡なフォトグラファー」ではネガティブな印象を与えますので、「アマチュア」などと訳すのが適切でしょう。
原文:The feedback received will be used to consider which functions require better discoverability and instruction.
訳文:お寄せいただいたフィードバックは、どの機能をより見つけやすく、説明が必要かを検討するために使用されます。
訳例:お寄せいただいたフィードバックは、どの機能をより見つけやすくし、どの機能に説明を増やす必要があるのか検討するために使用されます。
解説:こちらは主語と述語の不一致(語句の構造)のエラーです。「より見つけやすくする」の主語は「書き手」なのに対し、「説明が必要」の主語は「機能」になっていますね。このように、文の途中で主語が変わってしまっている訳文をしばしば目にします。日本語では主語を省略することが多いですが、それは文の途中で主語を変えてもいいという意味ではありませんのでご注意ください。
最後に、「ウイルス」に関するニュースが日常の一部になってからしばらく経ちましたね。そんな中で気になるのが「ウイルス」の表記です。正しい表記は「ウイルス」です。頻繁に目にするのが「ウィルス」ですが、こちらは間違いです。一瞬見ただけだと違いを認識するのが難しいかもしれません。「イ」の大きさに注目してみてください。ウイルスについてのニュースを見るのが当たり前の日々が早く終わることを願いつつ、みなさまには引き続き正しい表記を使用するようにお願いしたいと思います。このように、最近目にする機会が増えた言葉の表記で気になるものがありましたら、ぜひコメントで教えてください。投稿に対するご意見やご感想もお待ちしています!それではまた来月お会いしましょう。
4 comments
yt5858さん
コメントありがとうございます。リンク先の記事を拝見いたしました。
リンク先の記事はどちらも「新型コロナウイルス」に触れているものでした。日本政府の官報や厚生労働省のウェブサイト、さらにこちらでもご確認いただけるかと思いますが、COVID-19は日本語で「新型コロナウイルス感染症」、この感染症を引き起こすウイルスは「新型コロナウイルス」と書かれています。ですがこれはあくまで「COVID-19」の日本語訳についてですので、「virus」とはまた別の話ですね。
投稿で取り上げた「ウイルス」の表記についてですが、こちらの資料の10ページに「ウイルス」が一般的に使用されるようになった経緯が簡単にまとめられています。おっしゃるとおり、Gengoスタイルガイドでは使用頻度の高い訳語を選択するように規定されているわけではありませんので、「ウィルス」が間違いだというのは厳しすぎたかもしれません。専門機関が採用している表記の使用を推奨します、にとどめておくべきでしたね。
「virus」という単語が出てきた場合には、「ウィルス」「ウイルス」どちらでもお好きな表記を選択していただければと思います。
Gengoとしては、翻訳者によってバラツキが生じないよう、できるだけ一般的に使用される表記を調べて、それを使うよう推奨した方がよいのではないでしょうか?もちろん、ネットで調べれば「ウィルス」の表記も出てくると思いますが、「ネットに出てくる=正しい」という意味ではありません。タイプミスや勘違いで「ウィルス」と表記してしまった事例も含まれている可能性がありますし、さらにそれを見た人が「ウィルス」が一般的だと勘違いして、ネット上で広がった可能性もあります。
公的機関や学会、メディアでの多数派の用法(『記者ハンドブック』でも、病名の表記例ですべて「ウイルス」が使われています)、辞書の見出し語を見れば明らかに「ウイルス」が一般的ですし、発音とも合致しています。
Shioriさんが直前で述べられている「専門機関が採用している表記の使用を推奨します」という一文をスタイルガイドに入れる方が、翻訳の品質向上という意味でも望ましいのではないでしょうか?「ウイルス」くらい表記法の確立した用語について、別のマイナーな表記法でもいいですよと言ってしまうのは、得策じゃない気がします。一般的な表記法を調べるのは当然翻訳者の責任ですし、yt5858さんのコメントも「基準を明らかにしてほしい」というのがそもそもの趣旨なのでは?Edit案件で、翻訳者が「ウィルス」を使ってると、訂正すべきかどうか迷っちゃいますしね。
私も「ウィルス」が誤りだとは考えていませんし、Shioriさんもその点は訂正されています。その点に関して、意見の相違はないと思います。
ただ、翻訳会社としては一定のルール(ガイドライン)を定めた方が合理的だと思ったので、そういう提案をさせていただきました。理由は2つあって、1つは、依頼するお客様は、より一般的な表記が用いられることを期待しているはずだということ。「ウイルス」の方が一般的なのに、そのお客様の翻訳には別の表記が使われていたら困惑されるでしょう。「ウィルス」が誤りではないからと説明しても、より一般的な「ウイルス」の表記を使わない理由の説明にはなりませんし、お客様にとって何のメリットもありません。2つ目の理由は、翻訳者によって表記がずれるのをできるだけ防ぐような仕組みが必要だということ。現状、同じお客様の案件に複数の翻訳者が関わる仕組みになっているので、より一般的な表記を調べて、それを使いましょうねというルールにした方が表記のずれが発生する確率は低くなります。その方が、お互い楽だと思いますし、お客様もハッピーでしょう。表記法が確立していない用語に関してはどうしようもありませんが、「ウイルス」くらい一般的な表記なら、自然と「ウイルス」で統一されるようになるとありがたいなと感じます。「ウィルス」でGoogle検索しても、Amazonで書籍検索しても、出てくるのは「ウイルス」ばかりなので、そちらの表記を使った方が自然だろうと思います。
実は、別スレッドの「ゴースティング」の議論にも通じるところがあって、お客様の立場と読む人の立場に立って、より一般的な用語・表記を使った分かりやすい翻訳にする、ということを何らかの形でガイドライン化できればいいのかなと思います。
長々と失礼しました。
ああ、やはりそうでしたか。蛇足かなと思いつつ、くどくどと説明してしまいました(笑)